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海援隊



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海援隊

水俣の青い空

作詞:石牟礼道子・武田鉄矢
作曲:千葉和臣

うちは、こげん体になってしもうてから、いっそうとうちゃんのことが
いとうしゅうてならんとです。
見舞いにいただくもんは、みんなとうちゃんにあげるとです。
うちは口も震えるけん、
こぼれて食べられんもん。それでとうちゃんにあげるとです。
とうちゃんには世話になりよるもんね。
うちは、今のとうちゃんの後添えに嫁に来たとですばい。天草から水俣へ。
嫁に来て三年もたたんうちに、
こげんえたいのしれん奇病(やまい)になってしもうたでしょうが。残念か。
うちはひとりじゃ
着物の前も合わせきらん。手も体も、いつもこげんふるえるでしょうが。
自分の頭がいいつけんとに、
ひとりでふるえるとじゃもんね。それでとうちゃんが、
仕様んなかおなごになったなあちゅうて着物の前ば
あわせてくれらす。うちは、もういっぺん元の体になろうごたるですばい。
親さまに働いて
食えしていただいた体じゃもんね。病気することなかったとですよ。
うちは、まえは手も足もどこもかしこも
ぎんぎんしとったとですよ。うちはどうしてもこうしても、
もういっぺん元の体にかえしてもろうて、
自分で舟漕いで働こうごたる。今うちは、なさけなか。
病院のベットの上に寝とっても思うことは
仕事のことばっかりです。海の上はよかった。海の上は本当によかった。
春から夏になれば海の中にも
いろいろな花が咲く。うちたちの水俣の海はどげんきれいだったかな。
わけても魚どんがうつくしか。
いそぎんちゃくは菊の花の満開のごたる。
海の底の景色も陸の上とおなじに春も夏も秋も冬もあっとですばい。
うちは、きっと海の底には龍宮があるとおもうとる。
夢んごてうつくしか、龍宮があるとおもうとる。
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水俣の青い空 鳥は行く大空を
水俣の青い空 空を行く白い雲

うちは、だんだん自分の体が世の中から
離れてゆきよるごとある気がするとですばい。握ることが
できんでしようが。自分の手でモノばしっかり握るちゅうことができん。
うちは、とうちゃんの手どころか、
大事なむすこば抱き寄せられんごとある体になっとるでしょうが。
そらもう仕様もなかが、わが口を養う
茶碗も抱かれん。箸も握られんとですよ。
足も地につけて歩きよる気のせん、いっつも宙に浮いとるごたる。
心ぼそか。世の中から一人引き離されてゆきよるごたる。
うちは、寂しゅうして、寂しゅうして、
どげん寂しかか。あんたにゃわかるめえ。ただただとうちゃんが
恋しゅうして、この人ひとりが頼みの綱ばい。
働こうごたる。そりゃあ、働こうごたるですよ自分の足ばつこうて。
働こうごたるですよ。

海の上はよかった。海の上はほんとによかった。
とうちゃんが艪ば漕いで、うちが艪ば漕いで。

いまごろはいつもイカやタコば上げに行きよったとです。
ボラも、あやつたちもあの魚どもも、タコだもも、
みんな可愛いかとですばい。
四月から十月にかけて水俣のシン島の沖は凪でなあー。

水俣の青い空 沖を行く舟はなく
水俣の青い空 怨み唄 風に消え
水俣の青い空 わすれないでこの海を