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永井裕子



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永井裕子

海猫挽歌

窓を開ければ海鳴りが 鉛色した海峡が
日暮れどきには軒先を 鴎が低く飛んでゆく
たまにはお店を 休もうか
町へ素顔で 出かけよか
あの人帰っちゃ 来ないのに
別れて三年 たったのに

錆びた手摺(てすり)にハンカチを ふたり泣いてたあの映画
いつか帰って来るようで 桜の花が咲く頃に
髪の毛結んで 口紅(べに)さして
店の支度を 始めよか
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あの人帰っちゃ 来ないのに
葉書のひとつも 来ないのに

ひとり手酌でぬる燗を 常連(きゃく)も覗かぬシケた晩(よ)は
涙まじりの舟歌が 想いでばかり連れて来る
今度生まれて 来たときは
鴎だったら いいのにね
あの人帰っちゃ 来ないのに
会えなきゃ死んだと 同じこと